<エニグマとは>
1918年ドイツの発明家アルトゥール・シェルビウス(Arthur Scherbius 1878-1929)はこれまで不備の多い暗号システムを一新する発明を行いました。それがエニグマです。ここでは、その当時、非常に完成された暗号機エニグマのシステムについて解説していきます。
<エニグマの概形>
まず、エニグマの概形を図示したものが下図のようになります、たぶん。
上から1、2、3、4それぞれのパートに分かれています。
1.スクランブラーユニット(Scrambler Unit)。3つのスクランブラーが3つの窓からそれぞれ見えるようになっている。
2.ランプボード(Lamp Board)。キーボードを押すとそれに対応したアルファベットが光るようになっている。
3.キーボード(Key Board)。
4.プラグボード(Plug Board)。
<エニグマの構造>
では、エニグマの構造について考えていきましょう。以降、簡単のためにアルファベットをAからGの7つとします。
まず、下のような換字式暗号をつくります。
A → E
B → A
C → D
D → F
E → B
F → G
G → C
この換字式暗号を機械化したものをつくるとしましょう。下の図は左のキーボードを押せば、中央のスクランブラーを介して、右のランプボードが光るというものです。つまり、Cを押せばDが光るというわけですね。
こんなものでは、何の役にも立ちません。せいぜい子供の遊び道具です。ではスクランブラーを二つに増やすとしましょう(下図)。
このままでは、スクランブラー1つと何ら変わりません。ここで左のスクランブラーをスクランブラー1、右のスクランブラーをスクランブラー2とします。そこでキーボードを押すごとにスクランブラー1が一つずつ回転してずれるとします。つまり、この場合7回押せばスクランブラー1は元に戻ってきます。そこでスクランブラー1が一回転するとスクランブラー2がひとつずれるとします。つまりこの二つのスクランブラーは49回キーボードを押せば、元の状態に戻るわけです。非常に複雑になってきました。エニグマにはこのスクランブラーが3つついていました。さらにその3つは、お互い交換可能なので計り知れないほど複雑なものとなったのです。
これまでは、暗号化のことしか考えていませんでしたが、暗号化したら必ず、復号化できなければ意味がないですね。そこで取り付けられたのがリフレクター(Reflector)です。リフレクトつまり反射装置です。
ここで下の図を見てください。
キーボードでAを押したところの模式図です。Aを押すと、3つのスクランブラー(ここでは一つしか書いていません。)を通って、リフレクターに到達します。リフレクターはスクランブラーのように回転することなく、そのまま反射させて再び3つのスクランブラーへ返します。3つのスクランブラーを通ったあと、ようやくランプボードに到達します。
このリフレクターを取り付けたメリットは、上の図から明らかなように、スクランブラーが同じ配列で、3つとも同じ位置にあるときAを押すとFのランプがつきますが、逆にFを押すとAのランプがつくということです。つまり暗号化されたメッセージを復号化するときは、暗号化したときの初期状態にスクランブラーを設定し、暗号化メッセージそのものをキーボードで入力していくと、復号化されるということです。エニグマ上で、模式図を再現すると下のようになりますね。
もう一つ、エニグマにはプラグボードというものがついています。下の図を見ると、本来、Aを入力するとFのランプがつくはずなのですが、プラグボードを介しているので、Bのランプがつきます。つまりエニグマの配線を換えることができる機能です。エニグマにはこのプラグが6個ついているので合計6組12個のアルファベットの配線を変更可能になっています。
こうして初の本格的な暗号機、エニグマが20世紀に登場したのです。